PROJECT STORYプロジェクトストーリー

「しぶそば」50周年記念物語

「しぶそば50周年記念イベント」を成功させよ!

しぶそばは、東急グルメフロント(以下TGF)を代表するオリジナルブランドで、東急線沿線を中心に展開する駅そばチェーンだ。現在、11店舗を展開するが、その中で最も古いのは蒲田店で、東急線、蒲田駅改札口内に隣接して店を構える。創業は1969年から半世紀もこの場所で店を守り続け、多くのファンを獲得している。そして50周年を迎える2018年11月に、記念イベントが開催された。しぶそば定期券やグッズ販売、記念列車も走るなど大々的な催しで、しぶそばファンはもちろん東急線ファンの間でも大きな話題となった。
このイベントは誰がどのように仕掛けたのか、その裏側を探ってみよう。

PROFILE開発担当者プロフィール

  • 梶 勝 MASARU KAJI

    営業部 しぶそば担当 マネージャー
    2001年入社

    東京都出身。文学部史学科卒。中学では卓球部、高校はテニス部に所属。大学時代、コンビニなどのアルバイトを通して、客と触れ合う仕事がしたいと思うようになり、飲食業界を志望し東急グルメフロントに入社。休日は家族と買い物に行って過ごす。読書は東野圭吾、池井戸潤の著作を好む。資格は防火管理、食品衛生を持つ。
    モットーは「調和」。仕事は自分だけとんがっていてもだめ。まわりとの協力が必要。
    好きな食べ物は、しぶそばの「天玉そば」。

  • 大橋 智洋 TOMOHIRO OOHASHI

    企画開発部 販促・マーケティング担当
    2007年中途入社

    三重県出身。学生時代に東急グルメフロントのカフェでアルバイトを経験。人との触れ合いが新鮮で飲食業が面白くなり、そのまま入社。趣味は草野球。釣りも趣味で、休日は三浦半島の磯でメジナを狙う。資格は、防火管理者、防災管理者の他、経理財務担当時代に日商簿記2級を取得。その他食品衛生責任者、個人情報保護士を持つ。
    モットーは「やり切る」で、成果を出すことにこだわる。
    好きな食べ物は2019年11月に、自らが考案した自社ブランド「海老福」の海老天。

プロジェクト背景

やるしかない

2018年4月、企画開発部に販促・マーケティング部門が新設された。広報・PR関係を強化するための専門部署である。新部門に抜擢されたのは、大橋智洋だ。大橋はこれまで、カフェブランドの販促PR業務を手掛けてきた。新しい部署では、一つのブランドや業態だけではなく、TGFが持つすべての店舗やブランドを担当する。

4月のある日、全マネージャーが集まる、月1回のマネージャー会議の席で、ある役員が口を開いた。
「皆さん、今年の11月に蒲田店が50周年を迎えますが、何か施策を考えていますか」
突然の発言に、一同は静かになった。施策どころか会議に参加した全員が、蒲田店が50周年を迎えることすら知らなかったからだ。

「50周年記念でいろいろなイベントができると思います。我々は東急グループの一員なので、東急電鉄に頼んで、記念列車を走らせたりしたら面白いのでは」
部下である大橋も初耳の話だ。突然の振りに、広報・PR担当として、「考えます」ととっさに答えたものの、
「役員は何を言ってるんだろう。これまでそんな大掛かりなイベントはやったことがないし、そんなうちでできるのか」
心の中で、大橋は思っていた。

数日後、役員は大橋を呼び出した。
「会議でああは言ったが、営業担当マネージャーたちは忙しいのでできないだろう。大橋さんが旗を振って進めて欲しい」
大橋は、「もう、やるしかない」と腹をくくった。そして、何ができるかについて一人で考え始める。50周年記念イベントの目的は、基幹事業であるしぶそばブランドの認知度向上、そして収益力向上につなげることだ。
しかし、問題は山積みだった。まず大橋はしぶそばに関する知識や経験がない。会社として周年イベントをやるのも初めてだ。しかも、4月に入ってからの起案なので、予算の割り当てがない。できるだけ自分たちでお金をかけずにやらなければならない。

プロジェクトのプロセス ── 計画作成

プロジェクトA〜F+X

何をやるか。まず、他社の周年イベントや販促イベントで参考になるものを徹底的に調べてみた。その中で目に留まったのが、「定期券」企画だ。
「これは使える。駅そばであるしぶそばに、定期券は相性が良い」
真っ先に、定期券企画の採用を決めた。

次に、大橋の頭に思い浮かんだのは「しぶくまくん」だった。しぶくまくんは、しぶそばのキャラクターとなっている手書きのくまのマスコットである。いわゆる「ゆるキャラ」で、数年前しぶそばの公式ツイッターのアイコンに使用されてから、じわじわと人気が出ていた。

蒲田店50周年で、ファンに向けてしぶくまくんのグッズを作って売る。アイデアが次々と涌いてきた。そのほか、東急電鉄のキャラクターである「のるるん」を当日店に呼ぶ「のるるん1日店長」、「50周年記念メニュー」、「50周年記念クーポン」など、全部で11項目のイベントメニューをリストアップした。そして、当日やるものとそうではないもの、蒲田店でやるものと全店でやるものに分け、アルファベットのAからFまでに分類した。

その中で、AからFに分類されない企画がたった一つだけあった。役員が店長会議の席上で提案した「記念列車」企画である。
「とりあえず、リストアップはしたものの、当初記念列車が実現するとは思いませんでした。だから、どうなるかわからないという意味で、『X』に分類しました」と、大橋は言う。
やるかやらないか、できるかできないかわからない「プロジェクトX」である。

プロジェクトのプロセス ── チーム編成

3カ月でやり切る

次に着手したのは、プロジェクトチームの編成だ。人選もすべて大橋に任された。
人選で大橋がこだわったのは、実際に動くスタッフだけでなく、それぞれの上長を加えたことだ。
「プロジェクトに与えられた時間は限られています。チームで議論したことを会社で承認してもらう時、上長も含めて議論された方が通りやすいと考えました」
そこには、スムーズにプロジェクトを進めるための周到な計算があった。

7月には、チームのキックオフ・ミーティングが開催された。
大橋はプロジェクトの目的や概略を全員に説明したあと、こう続けた。
「実施は11月4日、我々に与えられた時間はわずか3カ月しかありません。そこで、皆さんに約束していただきたいことがあります。これから2週間に1度、定期ミーティングをやってそれぞれの作業の進捗を確認します。これには、全員が必ず出席してください」
チーム全員のスケジュールを押さえたのだ。
チームで決めなければならないことは数えられないほどたくさんある。そして、その期間内に準備はもちろん、告知もやらなければならない。

大橋は、担当者にAからFまでの企画を割り振った。もちろん、大橋自身は全部の企画に顔を出す。そして、営業部の中ではしぶそば担当マネージャーの梶勝をキーマンとして選んだ。梶はプロジェクトで決定したことを現場に伝える営業面の調整役として、ほとんどのプロジェクトに関わることになった。
「11月までのスケジュールはガチガチに抑えられました(笑)。もう、やるしかない、やってやろうという気持ちになりましたね」と、梶は振り返る。

プロジェクトのプロセス ── シンボルマークの作成

全店を巻き込む

大橋はプロジェクトを最初に進めなければいけないもの、外部との調整作業が必要なものなどにさらに分けて大まかなスケジュールを作成した。真っ先に決めなければいけなかったのは、記念事業のシンボルとなるロゴマークである。メインビジュアルでもあり、クーポン券や記念商品など、さまざまな場所に使われる。

プロジェクトチームの中には、しぶくまくんの産みの親でもある田中もいた。大橋は田中に頼んでロゴマークのデザインを4案制作した。デザイン案ができると、それをしぶそば全店に配布し、マネージャーや社員だけでなく、パートやアルバイトも含め全員に、どれがよいかを投票させた。8月初旬の話である。
「プロジェクトを成功させるには、蒲田店だけではなく、しぶそば全店の協力が必要ですし、キャンペーンをしぶそば全体で盛り上げたかった」と、大橋は言う。

蒲田店以外では、この投票により初めて蒲田店がもうすぐ50周年を迎えることを知った人も多かった。ロゴ投票で本部は盛り上がっていたが、特に蒲田店と蒲田店以外の店舗との間には、温度差があった。
「まず、投票を盛り上げよう」。梶は、各店舗にキャンペーンの意味を説明して回った。そして、なんとか期日には、ほぼ全員がデザインを選んで投票し、約半数の票を集めたメインロゴが決定した。

全社員の思いのこもった、しぶそば50周年記念イベントのロゴ

プロジェクトのプロセス ── 商品企画

記念メニューの開発

その間大橋は外部との調整が必要なプロジェクトについて、関係先との折衝に走り回っていた。たとえば、50周年記念メニューの具材の調達だ。

記念メニューは、蒲田店50周年の11月4日から1カ月間、しぶそば全店で販売される。具としては原材料にもこだわり、秋田県産春菊天と京野菜堀川ごぼう天の2種類の国産野菜の天ぷらを選んだ。店舗に負担をかけないように、大橋自らが取次業者と原材料調達の交渉までをした。そしてビジュアル的なインパクトとして、東急線のキャラクターである「のるるん」のかまぼこをのせることが決まった。特に苦労したのが、このかまぼこだ。
のるるんのデザインを金型で作り、かまぼこに色を練り込まなくてはならない。大橋はすぐに、滋賀県のかまぼこ業者と打合せを始めた。試作品を作り、東急(株)の担当者に見てもらい、なんとか使用許可をもらうことができた。

記念メニューは原材料にこだわり、秋田産春菊と京野菜堀川のごぼう天に、「のるるん」のかまぼこをのせた

プロジェクトのプロセス ── 東急グループとの協業

東急電鉄との折衝

蒲田店でイベントを実施するには、東急電鉄の承認が必要だ。
「イベントが実施できないというのはどうしても避けたかったので、交渉する順番を考えました。そして、まず鉄道事業本部に挨拶に行きました」(大橋)
鉄道事業本部に根回しができていれば、その後がスムーズに運べるからだ。

記念列車の構想を電鉄の担当者に話した。時には「どうせ、笑い話として流されるだろう」と心の中で思っていたが意外な返事が戻ってきた。
「面白そうな企画ですね。11月、12月は無理ですが、1月なら電車を準備できると思います」
記念電車の構想が一気に具体化した。それも、普段通らない経路で電車を走らせることが可能ということだった。
「緑色の池上線の車両が、しぶそばの記念列車として、大井町線、田園都市線を走り、長津田まで行く。これはすごい」
大橋は、身震いした。

プロジェクトのプロセス ── 告知

ツイッターで拡散

時間は大橋を急き立てるようにどんどん過ぎていった。プロジェクトでは、11月4日の前の1カ月間を告知期間と位置づけていた。告知期間には、自社ホームページでの告知をはじめ、東急電鉄が発行する情報誌「SALUS」に広告を出稿、駅ラックでパンフレットを配布したほか、しぶそば従業員全員が記念缶バッジを着用して接客し、PRに努めた。

また、SNSも利用するなど新しいPR手法も導入した。ツイッターのリツイートキャンペーンはツイッターでしぶそばをフォローし、キャンペーンの投稿をリツイートすると、抽選でホテルのレストランペア食事券や、かき揚げそば無料券が当たるというもの。その結果、約600件もの応募があり、リツイートによってイベントの情報が拡散していった。

「リツイートキャンペーン」で、イベント情報が拡散した

プロジェクトのプロセス ── イベントのスタート

大盛況

11月4日、いよいよ蒲田店でのイベントが実施された。大橋と梶はイベント対応のため、始発電車で蒲田店に駆け付けた。2人の目に映ったのは、既に「しぶそば定期券」の購入に並んでいる数名のお客さまだった。この定期券は50日間かけそばが何杯でも食べられるというもので、3000円で販売される。事前の問い合わせも多く、話題となっていた。電車が動き始めると、あっと言う間に長蛇の列になった。当初の午前9時からの販売予定を、あまりの人の多さに30分繰り上げたのだが、予定数の100枚は即完売、さらに用意していた予備の50枚も9時の時点で完売していた。

また、全店で販売を開始した「50周年記念メニュー」の販売も好調だった。その理由の一つに「しぶそば特別列車」との連動がある。記念メニューを食べると特別列車応募シールがもらえる。応募シールを集めて、応募すると、抽選で特別列車ご招待が当たるというもの。
「特別列車はしぶそばファンだけではなく、鉄道ファンの間で話題になっていたようです。詳細がわからないので、ネットでも少しザワザワしていました」(大橋)
応募は約1000件にも達し、倍率は60倍という狭き門となった。50周年記念メニューの「のるるんのかまぼこ」もSNSに投稿する人が続出して話題となり、記念メニューの売り上げも伸びていった。

「しぶそば定期券」は、午前9時までに即完売

プロジェクトのプロセス ── 東急電鉄との連携

しぶそば特別列車

大盛況に終わった蒲田店のイベント。だが大橋にはまだ仕事が残っていた。12月と1月、大橋はそれぞれの検車区、さらに東急蒲田駅と五反田駅の駅長にも挨拶に行き、改めてイベントへの協力をお願いした。

2019年1月29日12時14分、しぶそば特別列車が東急蒲田駅のホームに滑り込む。30名の招待客、しぶそばスタッフや関係者、それを写真に撮ろうとする鉄道ファンでホームはごったがえした。ホームでは手作りの看板を持ったスタッフたちが、列車の出発を見送った。

鉄道ファンの間でも人気となった「しぶそば特別列車」

結果分析と、今後の展望

見えた、しぶそばの可能性

駆け足で準備したイベントだったが、結果を分析すると大成功と言える成果を残していた。イベントの集客、グッズ販売、記念メニューの売り上げ、どれも当初の目標を上回った。しぶそば定期券や記念メニュー、特別列車の運行など、イベントの話題性と注目度は想定以上で、しぶそば全体の認知度アップ・好感度アップにつながった。

販売目標を大きく上回った「記念グッズ」

もう一つの大きな収穫は、しぶそば従業員の意識の変化だ。 店舗との調整を担当した梶は、店長たちに「しぶそばのロゴには『先達』の文字が入っている。50年続いてきたということは、駅そばの草分けとしてそれをやってきた人がいるわけで、これを後世まで伝えていくことが大切だと」、機会あるごとに説いた。

「楽しんで手伝ってくれる人もいますが、人手不足で忙しいのでいやがる人もいたのは事実です。でも、終わってみてみんなの気持ちが前向きになったと思っています。うちの会社も、こんな大きなイベントができるんだ、特別列車まで走らせることができるんだ、と感じているのではないでしょうか」と、梶は語る。

今回の応募者を分析してみると、しぶそばの店舗がない東横線沿線にも、しぶそばのファンが広域に分布していることがわかった。また、男性が圧倒的に多いと思っていたが、40代の女性も意外と多く、女性の支持基盤層もあることや、東急線のファンと駅そばであるしぶそばのファンがリンクしていることもわかった。しぶそばの店舗展開は、東急線沿線にエリアに限られているので、お客さまを爆発的に増やすのは難しい。しかし東急線のファンを、しぶそばのファンにつなげ、拡大していく可能性が見えてきた。

「イベント当日、蒲田店の常連層だけではなく、普段他の店舗を利用しているしぶそばの熱狂的なファンが、蒲田店まで来ていただいていました。これは、しぶそばというブランドが想像以上に浸透していることを示しています。お客さまとのリレーションに変化が生まれたと思っています。そういう意味でも、お客さまと直接触れられるイベントは重要です。50周年を機に、しぶそばブランドをもっと浸透させファンを増やし、店舗を増やしていきたいと思っています」
ひと仕事やり終えた大橋の目は、次の一歩に向け輝いているようだった。

最後に ──「自信」と「一体感」

しぶそば蒲田店50周年記念事業は、記念事業という枠を遙かに超えたイベントとなり、大盛況の内に幕を閉じた。TGF始まって以来の一大イベントを、起案から半年という慌ただしい時間の中で立ち上げ、想像以上の結果を残した意義は大きい。何よりも、しぶそばブランドのさらなる可能性を期待させる当初の目標とする結果を得た。

しかし最大の成果は、経験のない事業へのチャレンジを通して、担当も当社も、やればできるんだという「自信」と、会社全体が目標に向かった「一体感」を得たことではないだろうか。これこそが財産であり、今後未知の事業にチャレンジする際の、起爆剤となることであろう。
これに続くイベントを、これから入社を希望する皆さんと一緒になってやろうではありませんか。